「私の友人のお父さん」
私が高校に入学して間もない頃、新しい級友たちと家族の話題になりました。そのうちのひとりが、高校入学前に父親からこう言われたそうです。
「高校生になったら、自分で考えたことを思いっきりやってこい。もし、何かあったら私が全ての責任を取ってやるから、心配するな」
私の父も「頑張ってこい」とは言いましたが、「全ての責任を取る」とまでは言いませんでした。
それから数十年後、私たちにも家族ができ、仕事や子育てに忙しい日々を送っているなか、先ほどの友人と久しぶりに同窓会で再会しました。私は彼のお父さんの言葉をずっと覚えていて、その話をしてみると、彼から意外な話が返ってきました。
「実は子供のことで大変なことがあったんだよ。息子が中学生のとき、喧嘩して相手に怪我をさせてしまってね。軽い怪我ですんだのは幸いだったけど、相手の親にどう謝ったものか頭を悩ませたよ。息子にも言い分があって参った。しかし、自分は息子にこう言ってやったよ。『お前が怪我をさせたのだから、お前が全部悪い。明日相手の家にいっしょに謝りに行くから、お前は坊主になってこい』と」
彼は息子といっしょに相手の家に謝りに行ったそうです。父親である私の友人も丸刈りになって。彼もまた自分の父親に倣って、「全ての責任を取る」を自ら体現したのでした。
友人は元来、物静かで思慮深い男です。こう言ってはなんですが、学生時代から体育会系とは無縁で、こんな行動をするような人物ではありません。だからこそ、彼から改めて、「父親の責任」というものを教えられた気がしています。